トップページへ
![]() |
| 「よく覚えていない」は禁句。示談にも応じるべきではない。 |
■目撃者が少ない「痴漢」、自衛策は必須
電車内における痴漢行為が後を絶たない。最近では、JR埼京線で
男性4人が女性を取り囲み痴漢に及んだとして逮捕されるなど、卑劣
な行為が明るみに出た。
一方、痴漢の冤罪事件も近年は目立つようになった。2008年2月
に起きた、大阪市営地下鉄御堂筋線で男性が痴漢にでっち上げられ
た事件は記憶に新しい。
電車内の痴漢は、周りに人が多いにもかかわらず目撃者が少なく、
物的証拠も取りにくいということから、冤罪がつくられやすい。通勤時
の満員電車ならなおさらで、決して他人事ではない。あなた自身が疑
いの目で見られないとは言い切れない。何らかの自衛策が必要だろ
う。
私が司法修習生時代、警察の痴漢取り締まりに立ち会ったことがあ
る。刑事がチェックするのは、ホームに挙動不審な人物がいないかど
うか。キョロキョロ周りを見回したり、電車が到着する直前に並ぶ位置
を変え、女性の後に車内に乗り込むような人物は疑いの目を向けら
れる。これら誤解を招く行為は避けることだ。
車内でも、できることはたくさんある。可能ならカバンは網棚に置き、
両手でつり革や手すりをつかみ、周りに見えるようにしておく。また、
痴漢の多発地帯といわれる車輌の連結部近くにはいかないのもポイ
ントだ。周りに怪しい人物がいないか、女性の有無も確認しておきた
い。
図らずも女性の体に手が触れ、非難の目で見られた場合、私は素
直に謝ることをお勧めする。あえて声に出し周りにアピールしておけ
ば、自衛にもつながる。謝った人間がそのまま、痴漢をするとは考え
にくいからだ。
それでも痴漢を疑われた場合だが、被害者が恐怖のあまり泣いて
いたとしても、下手に同情するのは禁物。「やましいから同情してい
る」と思われ、逆効果になる可能性がある。その身が潔白なら、毅然
とした態度で臨むようにしたい。
供述がブレないことも重要だ。「よく覚えていない」といったひと言
は、後の供述の信憑性を著しく低下させるので、決して口にしてはな
らない。頭に血が上っているなら、「身に覚えがないのにこうなり、混
乱しているので、整理してからお答えします」と、その場の供述を差し
控えても構わないのだ。
最悪のケースは、疑いが晴れぬまま警察に拘束され、さらに告訴、
裁判にもつれ込んだ場合。まず警察には、自身の手に被害者の洋服
の繊維が付着していないかなど、物証を取るように要請すること。身
柄拘束を盾に自白を迫る刑事がいても、決して首をタテに振ってはな
らない。被害者が示談を迫っても応えるべきではない。「穏便にすます
ため」といわれるが、本当に穏便にすんだためしはない。一刻も早く
弁護士に助けを求め、刑事事件に精通し、できるなら痴漢裁判の経
験がある人物に弁護を依頼することだ。
日本の刑事裁判の有罪率は99%といわれ、冤罪を晴らすのは至難
の業だが、裁判では熱意を持って無罪をアピールすること。VTRで状
況を再現したり、少ない中からも物証を集めるなど、できる限りのこと
をすべきだ。
なお痴漢行為には各都道府県の迷惑行為防止条例(東京都の場
合、2年以下の懲役または100万円以下の罰金)、悪質な場合は強
制わいせつ(6カ月以上10年以下の懲役)が適用される。社会的制
裁によりその後の人生も大きく左右される。疑われぬよう、慎重に行
動したい。
ちなみに、体に触れるのに「手の平はアウト。手の甲はセーフ」とい
う都市伝説はまったくのデマだ。あしからず。
八代英輝 (国際弁護士)
Hideki Yashiro●1964年、東京都生まれ。88年慶應義塾大学法学部卒。裁判官になったのち、97年退官。弁護士として活躍中。
大正谷成晴=構成
【プレジデント】



